~100人いれば100通りの治療がある~
最近、テレビやインターネットなどで漢方薬を目にする機会が増えました。
「認知症には抑肝散」「肥満には防風通聖散」「フレイル(加齢による心身の衰え)には人参養栄湯」といった紹介もよく見かけます。
これらは一つの目安にはなりますが、実際にはそのとおりにいかないことも多いのです。漢方医学は本来、病名だけで薬を選ぶ医学ではありません。
例えば、同じ肥満でも、食欲が旺盛な人、むくみが強い人、便秘がちな人、冷えがある人など、その背景はさまざまです。当然、必要な治療も異なります。防風通聖散が合う方もいれば、合わない方もいます。
フレイルも同じです。人参養栄湯がよく紹介されますが、食欲が落ちている方では、かえって胃にもたれてしまうこともあります。そのような場合は、体質や症状に応じて補中益気湯など、別の処方を検討します。
江戸時代の医学書『餐英館療治雑話』(目黒道琢)にも通じる考え方ですが、100人の患者さんがいれば、100通りの病気の姿があり、それぞれに合った治療が必要なのです。
私は山本巖先生の孫弟子にあたります。直接教えを受けたわけではありませんが、先生は、
「病気になり方があるように、治し方もあるはず」
と説かれました。
漢方治療で大切なのは、なぜその病気になったのかを考え、どのようにすれば改善するのかを探ることです。
処方した薬が効かなかったときも、「この漢方薬は効かない」で終わらせるのではなく、なぜ効果がなかったのかを考えます。必要であれば薬の組み合わせや量を見直し、時には治療方針そのものを考え直します。
現在は服用しやすいエキス剤が主流ですが、決められた処方だけでは対応しきれないこともあります。だからこそ、診察で患者さんの状態を丁寧に見極め、生薬の加減や処方の組み合わせを慎重に検討することが大切だと考えています。
漢方医学の本質は、薬の名前を覚えることではなく、患者さん一人ひとりを診て、考え続けることにあります。
私はその教えを大切に、日々の診療に取り組んでいます。
